里山の詩(うた)~ある男の里山づくり~

クラウドファンディングに寄せて
里山の詩(うた)~ある男の里山づくり~

合作詩 里乃駅ランプの宿 代表 佐伯 清美
        マネージャー  畑山 静枝

街の騒音から離れ
禅定寺山への山道 草深い砂利道を登っていくと
鬱蒼たる杉林 色鮮やかな雑木林が続いていた
放置された棚田に生い茂る杉
300年もの長い間 米作りに励んだ棚田跡に
幾本となく育った杉の木

杉林
杉林

木立から爽やかな風がそよぎ
渓流からはせせらぎの音
苔むした石垣が幾重にも連なる川沿いの小路を登ると
こんもりとした森の中に ポツンと小さな祠
中には役(えん)の行者が祀られていた

役(えん)の行者
役(えん)の行者

ここはいい ここに決めた ここはふるさとの匂いがする
 
東京からやって来た 65歳の小柄な男の瞳は燃えた

この自然の中で暮らそう
昔の生活に戻ろう ログハウスを造ろう

男は杉林の中にテントを張り ランプを灯した
週末になると東京から通い始め テント生活が始まった
タヌキやイノシシたちが興味ありげに男を取り巻いた

テント生活
テント生活

この男の夢に魅せられて集まってきた老若男女 
手弁当持ちで ログハウスを一緒に手作りした
ワイワイガヤガヤと

最初のログハウス作成
最初のログハウス作成

そんなとき 男は東京から犬を連れてきた
ゴールデンレトリバーの子犬で“ログ”と名付け
ログハウスのアイドル犬となった
今は天寿を全うし 禅定寺山の頂で眠っている

アイドル犬ログと子供たち
アイドル犬ログと子供たち

やがて男は70歳になり 80歳になっても
夢を見ることはやめず 無我夢中で里山暮らしを続け
目的別に大小九つのログハウスを造った
アスレチック“童の森”も作った
子どもらが大勢来るようになり 瞳を輝かせて遊んだ
平らな道に慣らされた子供らは
砂利道を歩くのに苦労する

童の森で遊ぶ子供たち
童の森で遊ぶ子供たち

薪を割りカマドでご飯を炊く
五右衛門風呂を沸かして入る
焚火をして焼き芋をほうばる
現代人の忘れた 昔の知恵や楽しさを 一つ一つ教えていった
そうして ここは 昔のさまざまな暮らしが体験できる里となった

川遊びもいい 水をかけ合いはしゃぐ幼き子ら
ここで遊ぶ子供らは 自然にはぐくまれて天真爛漫だ

大人たちも仕事に疲れると ここへ来るようになった
川のせせらぎを聞いて 心を癒す若者

薪割り、カマドでご飯炊き
薪割り、カマドでご飯炊き
川遊びの子供たち
川遊びの子供たち
独りぼっちは寂しいと 誰かれとなく話しかけるおばあちゃん
まだまだ 体を動かしたいとおじいちゃん
みんなが ここへ集まってくるようになった
ここは 都会や世界中からの訪問者が絶えない場所となった

都会や海外からの訪問者たちと。
都会や海外からの訪問者たちと。

春は 桜の花見に 
夏は ソーメン流しに
秋は 紅葉見物に
冬は いろりの炭火を囲みに

里山の四季
里山の四季

しかし 自然は時に厳しい試練を与える
ここにもゲリラ豪雨が襲ってきたのだ
禅定寺山は樹木がなぎ倒され 登山道が塞がれた
川の水は一気に増水し 大蛇のようにのたうち回った
里山に通じる砂利道は 損壊が激しく通行困難となった
陸の孤島となったとき 男は歯を食いしばり 
スコップをもって立ち上がった
日本全国から 心配の声が寄せられ ボランティアも駆けつけた
必死の修復作業で立ち直り 男に笑顔がよみがえった

豪雨、みんなで必死の修復作業
豪雨、みんなで必死の修復作業

男はケガもしたし 病気にも見舞われた
その都度 男は命あることに感謝した
ある時 男はふと思い出した
男が過ごした昭和初期の少年時代を
一寒村の貧しい暮らしではあったが 
父母兄弟たちの大きな愛に包まれて 
山野を駆け巡り たくましく成長した日々を
男はいまさらながら わが人生に感謝した そして決心した

昭和の あの誰もが元気で夢を持てた時代をここに再現しよう まだ命燃え尽きぬ前に

希望に燃える当時の佐伯清美
希望に燃える当時の佐伯清美

苦節24年の歳月が 矢のように過ぎ
男が 90歳(卒寿)という歳になった今
男は 決心の雄たけびを心の中で挙げた

男の中から湧き上がる 最後の夢に賭ける情熱
まだ 死ねないぞ この夢が実現するまでは
ふるさとの匂いのする居場所を造るんだ
三世代がふれあい よく遊び よく学びあえる 居場所として
忘れかけていた 大切なものを思い出し 心も体も豊かになれる
あたらしい“里乃駅どんぐりの家”を造ろう  

どんぐりの家を作ろう!
どんぐりの家を作ろう!

思い立って七年 雨の日も風の日も雪の日も労働に勤しんだ
男の熱い思いに揺さぶられて集まってきた仲間たちがいた
応援しますよ 私たちにできることなら 
と 口々に言いながら
あの初めてのログハウスを手作りした時のように
きらきらと 夢の輪が広がり始めた
男はいつも口癖のように言う 
願いを強く持ち続ければ それはいつか必ず叶うんだよ

男は 今日も図面を見つめ セメントを捏ねる
どんぐりの家を造るのに忙しい毎日だ
天国から ログが吠えている
今では二羽のうさぎも見守っている

セメントを捏ねる佐伯清美
セメントを捏ねる佐伯清美
森に住んでいる二羽のうさぎ
森に住んでいる二羽のうさぎ